『 雨の日は  ― (3) ―  』

 

 

 

 

   しとしとしと ・・・   細かい雨が落ちている。

 

 

半ば潜航している飛行艇の上に 数人の人影が見える。

「 ― ふん。  案外温かいな 」

「 今は満潮のようだね。 ここは廃港なのかな? 船舶の姿、ないね。 

 ちょっと潜ってこようかな 」

「 待って。  誰か 来た ・・・! 」

003は飛行艇から降りて 防波堤とおぼしき突堤で辺りを見回していたが 

彼女の言葉で全員が ぴ・・っと緊張した。

 

       す・・・ 

 

音もたてず気配も感じさせず、もちろん姿も見せずに

彼らは 防御のフォーメーションを組んだ。

「 脳波通信に切り替える。  照準を絞れ 」

≪ 了解 ≫

司令塔・004からの通信で 彼らはさらに静かに闇の中に潜んだ。

≪ 003  詳細を送れ ≫

≪ 了解 ・・・  「 あ  ああ!  ここです〜〜〜 

彼女の通信は途中から 普通の音声会話に変わった ― それも大声の。

その上、彼女は物陰から飛び出した! 和さわさ〜〜〜手を振りながら。

 

≪  うわ??? ≫

 

「 ここです〜〜〜  コズミ先生ですよね〜〜〜 」

彼女の視線の先には 白髭を蓄えた好々爺が 立っていた。 

 

     コズミせんせい  だってぇ????

 

全員が 身を乗り出してしまった。

細かい雨の向うの人影が ゆっくりと大きく手を振っていた。

 

 

 ― それから それから それから 

 いろいろ ・・・ まさに波乱万丈ありまして。

 

ギルモア博士はコズミ邸から そんなの遠くないこの地に 

< 家 > を建てた。

「 ほっほ  これは立派な邸宅ですなあ  ギルモア君。 

「 いやあ  ・・・ とにかく安全第一 だけでなあ  

 ああ 君の邸、壊してしまって申し訳ない ・・・

 そちらも 来週には完成する、とのことだぞ 

「 ほっほ〜〜 いやあ ありがたいなあ 

 皆さん 安心して過ごされて欲しいのう 

「 ふふふ 地下は研究室に工房、最地下は格納庫なんじゃ。

 あとは 新しい飛行艇の建造じゃ! 」

「 おお 君は相変らずエネルギッシュじゃのう 」

「 やるべきことは山ほどあるのだよ。

 ああ 二階には和室の座敷も設えたよ 遠慮なく遊びに来て欲しいのう 」

「 それは 嬉しいなあ ありがとう ギルモアクン 」

オールド・ボーイ達は 意気投合で復活のようだ。

 

 

   とん とん とん ・・・ 

 

足音も軽く登ってゆく。

新築の家の階段はぴかぴかで よく滑る。

「 わは ・・・ お〜〜っとぉ〜〜  

 へへへ スケート・リンクみたいだあ〜〜  」

ジョーは 一人ではしゃぎつつ二階の自室へ向かう。

 

階段を上って とっつきの左右がワカモノ二人・・・

あの赤毛のアメリカン と ジョーの部屋だ。

「 門番 だな。 身の軽いお前らにぴったり 

・・・ ということらしい。

 

  カチャ ・・・  広い部屋の突き当りには窓が大きく開けている。

 

「 ふんふんふ〜〜〜ん♪  へっへ〜〜〜 さいこ〜〜 」

バッグとキャップを机の上に放り投げると スマホと一緒に

ベッドに ぱふん。

「 ん〜〜〜〜  こんな広いトコ、 いいのかなあ〜〜〜 」

羽毛布団がふんわり 彼を包む。

「 へ へへへ ・・・ ここぜ〜〜んぶぼくの部屋だもんなあ〜〜 」

誰かとのシェアではない。 彼が一人で使ってよいのだ。

クローゼットには 真新しい服がならんでいる。

足元には スニーカーが数足、置いてある。

「 なんか ・・・ いいのかなあ・・ ぼくなんかが 」

貧乏性だなあ と自分でも思う。

広い部屋に一人きりだと 落ち着かないのだ。

「 う〜〜ん ・・・ なんか ・・・ちょっとなあ ・・・

 う〜〜ん 一人でいてもやるコト、ないし。

 あ 今晩の食事、どうするのかなあ  手伝いに行ってこよ! 」

 

  ガバ・・・っと起きると 彼は真新しい部屋から飛び出した。

 

「 えっと ・・・ キッチンは下 だよな〜〜 

    ・・・ と ・・・? 」

階段を降りる前に どうしても どうしても視線は廊下の奥、

どん突きのドアにへばり付いてしまう。

 

    ・・・ あそこ、 彼女の部屋 なんだよなあ 

 

紅一点の部屋は南側の角部屋。  これは全員一致で即決した。

その手前は < ガードマン > として あの独逸人と褐色の巨人が

向かいあわせで部屋を構えている。

 

「 ・・・ 彼女 ・・・ なにしてるのかなあ  ・・・

 どんな部屋なんだろ?  カーテンの色はブルーっぽいけど 」

オンナの子の部屋、 なんて想像もつかない。

「 ・・・ キッチン 行こ。

 大人の手伝いしてるのって なんか楽しいし。

 今晩のご飯はな〜〜にかな〜〜〜〜 」

 

    タカタカタカ −−  キッチンに駆けこんだ。

 

「 大人〜〜〜 」

「 わ!?  な なにね〜〜〜  あ ジョーはん 」

「 あは。  ねえ 手伝うよぉ  今晩のメニュウはなんですか 

「 ほっほ〜〜〜  どないしたね 」

料理人はたいそう機嫌がよく 丈の長いエプロン姿で振り向いた。

「 手伝いマス。 洗いモノ しますよ〜 」

「 手伝い、大歓迎やで〜〜  あんさんなら なおよろし。

 ここまでの旅で 調理の腕 しっかり、鍛えてやったしな 

「 え ・・・ あ ・・・ はあ  」

「 なあ この辺りで美味しいお野菜、なにね??

 ワテ、ようわからんよって ジョーはん 買い物 いてきてくれへんか 」

「 え・・・ だってメニュウは 」

「 ほっほ〜 あんさんの買うてきたお野菜、見て決めまっせ 

 あ あと 豚肉 と チキン と 卵 と 」

「 わ わ〜〜〜〜 待って まって ・・・ メモするから 

 え〜〜〜と??? メモ〜〜〜は 」

 

「 はい これ・・・ 」

 

ジョーの後ろから涼しい声とともに 可愛いメモ用紙が差し出された。

ビスケットみたいなキャラクターが隅についている。

 

「 おわ?  ・・・・ あ あ 003 さん 」

「 うふ  あのね フランソワーズ。 」

「 は? 」

「 だから 数字で呼ばないで。  わたし フランソワーズ です 」

「 ふ ふらんそわずさん ? 」

「 ・・・ フランソワーズ。  あなたは 009 でなくて

 えっと ・・・ ジョー でしょう? 」

「 は はい!  あ あのう メモ用紙、ありがとう! 」

「 どういたしまして。   あの・・・買い物に行くの? 」

「 うん、食糧の買い出しさ 」

「 あのう ・・・ この近くにファーマシー あるかしら 」

「 ??? ふぁ〜ま・・・? 」

「 薬局・・・ 薬屋さんのことやで。

 あ お嬢〜 あのな ドラッグ・すとあ いうねん。 

 近くに商店街にもあるさかい、この坊と一緒に行ったらええよ。

 お嬢はんは いろいろ・・・必要なモン、あるさかいな 」

料理人氏は さすがの年の功、何気なく助け船をだした。

「 え ・・・ あの  ジョー   いい? 」

「 もっちろん〜〜ん。 あ ぼく 店の前で待ってるからさ。

 いろいろ並んでるから自由に選べるよ 」

「 そうなの?  ・・・ ありがとうございます 」

「 いいってば〜〜〜  ここはぼくの育った国だからさ

 わかんないコト、どんどこ聞いてくださ〜〜い 」

「 ええ ええ 」

「 ほっほ〜〜 そんならな〜 お嬢?

 坊 ( ぼん )と この土地のお野菜、選んでもろてくれるか。 」

「 わあ  できるかしら ・・・

 わたし あんまりお料理とかしたこと、なくて ・・・ 」

「 そやったら 店の大将に聞いたらええ。

 美味しい食べ方 教えてや〜〜 て 」

「 あら そうね  うふふふ なんだか楽しみ〜〜 」

「 あは  それじゃ ・・・ 行く? 」

「 ええ 

「 あ コート、いるかも。 案外まだ寒いかも 」

「 ・・・ メルシ。 」

 

    わっはは〜〜〜〜ん♪

 

    ぼくでも 役に立つこと、あるんだ!

 

新しい家で ― ジョーはなんだか滅茶苦茶嬉しい。

自分の役割を果たすと  ありがとう!  助かった! の言葉が

降り注いでくる。

 

     もしかして。

 

     ぼくって ― ここでは 必要なヒト ・・・?

     居てほしい ヒト ・・・ なの?

 

なんだか自分でも信じられない気持ちなのだ。

 

 だって。 ずう〜〜〜っと。 そう それは この境遇に落ちる前から

いや 彼自身が覚えている限り ずっと・・・ 感じていたから。

 

     何の価値もないんだ ・・・ ぼくは。

     ああ 生きている価値 ある?

 

     こんなぼくに ― 居場所 ないよ

     こんなぼくを ― 待っているヒトなんか いない

 

     誰も ぼくのことを 気にしているヒト いないんだ

     ぼくは 必要のないニンゲン ・・・

     いなくても困らないニンゲン ・・・

 

底なしの寂寞感は 彼をどんどん内向的にしていっていた。

それが  その <重石> が  ・・・ とれた。

皮肉にも 本来の身体を失って 彼は生きる目標を得たのだ。

 

「 えっと〜〜〜 大人〜〜〜  もう注文忘れ、ないかなあ 」

「 はいナ  ジョーはん。  あのな お嬢をちゃ〜〜んと

 エスコートするんやで?  乙女の気持ち よう察してあげてな 」

「 ・・・ は  はい! 」 

 

日々の暮らしに必要なのは 雑用 だ。

些細なことばかり だが それが欠けてしまえば生活の質が落ちる。

まあ 平たくいえば 不便に感じ暮らしにくく思えるってことだ。

 

      ぼくが  やる!

      改善するんだ。

 

      細かいトコから やってくよ。

 

新しい邸で生活するようになり ― ジョーはくるくる働いた。 

いや 動きまわった。

仲間たちの何人かは 母国に戻りこの邸で次のステップの準備を

しているモノもいる。

彼は 聞いて回る。

「 あの ・・・ なんかヘルプ、必要なら言って? 」

「 ほっほ〜〜 ジョーはん、おおきに〜〜〜 

 あんさん、これからどないしはるつもりや 

「 どない・・・って・・・ 

「 ワテはいずれ店を構える。 母国に帰る、いうヒトらもおる。

 ジョーはんは どないするね 」

「 え ・・・ ぼく ・・・ ここに居させてもらえないかなあ

 ・・・ 帰るトコって  ないんだ 」

「 ふ〜ん ・・・?  ま それもええやろ。

 ギルモア先生にお願いしはったか? 」

「 あ ・・・ ううん ・・・・ まだ 」

「 さよか。  ほんならワテがな ちら〜〜と言うとくわな。

 ジョーはんに一緒に住んでもろたら ええんとちゃいまっか てな 」

「 え ・・・ あの あの ・・・ いいの? 

「 そやかて その方がギルモアセンセも便利がええやろ? 」

「 ・・・ うん ・・・ たぶん 」

「 それになあ  若いオトコはんがおったら安心や。

 ギルモア先生とお嬢とイワン坊 だけではなあ 」

「 え。 ・・・ お嬢 って ・・・・ あのう・・・

 ふ ふらんそわず ・・・ も ここに? 」

「 あれ 聞いとらへんのか?

 お嬢はここで暮らしはるそうやで。 」

「 え え え  ・・・ そ そうなんだ〜〜〜 」

 

    きんこんかんこ〜〜〜〜ん♪(^^(^^

 

ジョーのココロの中で 金の鐘が鳴り響いた。

「 そやから。  ジョーはん? 用心棒、たのんまっせ。

ワテもちょくちょく顔、出すさかいに あんさん、しっかりしてや 」

「 ・・・ は はい 」

「 ギルモア先生とイワン坊、護ってや。 」

「 は はい! 」

「 ほんでもって。  お嬢やけど。 あんさんなあ しっかりせいや? 

 ぼ〜〜〜っとしはってたら  ―  取られまっせ。 」

「 え?   えええええ・・・・? 」

「 わかってるで。    ワテだけやない、み〜〜んなわかってる。

 好きやったらな 正々堂々とモノにせいや。 」

「 も  モノぉ??? 」

「 そや。 お嬢の笑顔、護ってや。 あんさんの使命やで。 」

「 は  はい 」

ジョーは ぴし・・・っと背筋が伸びた。

 

       ほっほ・・・

       こりゃ 本気やなあ この坊 ( ぼん )

 

       ええこっちゃ。 

       お嬢とお似合いやで〜〜

       あんさんがなあ

       ずう〜〜〜っと お嬢のことば〜〜っかり

       見てはるの、み〜〜んな知ってるでぇ

 

       ほっほ・・・

       隠せてる、思てるのん、本人だけやけどな

 

大人はもうちゃんと < 見えて > いたけれど

素知らぬ風を 装っていた。

「 わかれば ヨロシ。 ほな 買い物、頼むで。 

 今晩は 天婦羅や。 揚げたてのあっつあつ・・・楽しみまひょ。

 ああ 大根、忘れずになあ 」

「 了解〜〜〜 イッテキマス! 」

彼は 財布とメモ、買い物カートをひっつかむと

疾風怒濤? の勢いで坂道を駆け降りていった。

 

こんなカンジに 彼は 新しい家でも キッチンで食事調達担当として

くるくると働いていた。

「 ふ〜ん ・・・っと。  大人〜〜 買い物、終わりましたァ 」

「 おおきに おおきに〜〜 冷たい麦茶 有りまっせぇ  

「 わ♪  〜〜〜〜 んま〜〜〜〜 」

「 おおきに ジョーはん。  今日も美味しいご飯、作りまっせぇ 」

「 わい♪  ・・・ えっと じゃあ ぼく 風呂掃除 してくるね 」

「 あれま ちょいと休みはったらどないや 」

「 あは ぼ〜くを誰だと 」

「 そやけどな  まあ 一休みせい。 

 麦茶にはちいと妙やけど チーズがあるさかい、カナッペやで。 」

「 うわお〜〜〜  うまそ〜〜〜 」

「 あ そやそや。  このキヌサヤの筋、取ってもろうてもええか。 」

料理人は ザル一杯の絹サヤを差し出した。

「 おっけ〜〜  あ〜 これ 食事当番の時、よくやったよう〜〜〜

 懐かしいな・・・ 

ジョーは キッチンの片隅でスツールに座るとカナッペを摘みつつ

黙々とサヤエンドウの筋を取り始めた。

 

「 あの わたしも やるわ 」

 

不意にザルの上に 白い手が伸びてきた。

「 ? ・・・ あ ・・・ ふ ふらんそわず さん 」

「 フランソワーズ。  さん はいらないでしょ。

 わああ〜〜 なんてキレイで瑞々しい緑なの ・・・ 」

白い指が サヤエンドウを摘み上げる。

 

     うわあ 〜〜〜〜〜〜〜〜

 

     き きみの指のが もっとキレイだよう〜〜

     ・・・ あ。

     絹サヤと < お似合い > だな

 

ジョーは俯きつつ じ〜〜〜っと彼女の手を見つめてしまう。

「 ね?  どうやるのですか 教えて ・・・ 」

「 あ  うん ・・・ あのう〜〜  ここを こう持って。

 アタマんとこ、ポチっと折ってから す〜〜〜 ・・・って 

「 ・・・こ  こう ・・・? 」

「 うんうん  あ そうっと持ってみて ・・・

 サヤエンドウは柔らかいから  」

「 そうなの?  ・・・ これで いい?  

「 うん  いっぱいあるから えへ 手伝ってくれると嬉しいや 

「 あんまり早くできないけど ・・・ いい ? 

「 もっちろ〜〜〜ん  オンナノコは丁寧だね〜〜 」

「 ・・・ そ ?? これは春の野菜なの? 」

「 ほっほ〜〜  一年中 食べられるけどな〜〜

 今が一番やで。  今晩、サラダで頂きまひょ 

 おお ようけでけましたな。  おおきに〜〜 お二人さん 」

「 えへ・・・ 」

「 うふふ 」

「 そや。 今晩のお食後になあ ナンか和菓子、買うてきくれへんか

 二人で行ってきたらええやん。

 フランソワーズはん このお国にスウィーツ、ようみてきてや 」

 

    「「 ・・・・ ( うわ♪ ) 」」

 

若いモン二人は ぎこちない笑顔で、離れて例の坂道を降りていった。

 

「 ほっほ・・・ じきにな 仲よう〜〜 お手々繋いでになるやん。

 ワテの目ぇは確かやで。  あんたらお似合いや。 

 ギルモア先生に 次の生き甲斐、差し上げてやあ〜〜 」

さすが年の功、というべきか この料理人氏の < ヒトを見る目 > は

確かだった。

 

若いモン達は やっぱり少し離れて、でも笑顔満載で帰ってきた。

「 ただいまあ〜 」

「 ただいま戻りました  ああ 気持ちよかったわあ〜〜

 え・・・っと。 なんでしたっけ この和菓子 」

「 え あは あのぅ ピンクのが桜もち・・・

 で ころん、としたのがヨモギまんじゅう デス。

 春のお菓子 なんだって

 えへへ・・・ この前ね 店員さんに教わったんだ。 」

「 サクラもち?  ああ あのサクラの花の色 なのかしら 」

「 ウン  もうすぐ咲くよ  ほら あそこの木、サクラだよ 」

ジョーは窓から坂道の途中にある木を指した。

黒っぽい幹の、大きな木で 道に枝を広く伸ばしている。

しかし ごつごつした枝ばかりが目立つのだ。

「 え・・・ でもまだ葉っぱも出ていないわよ? 

「 あ あのさ、 サクラって葉っぱは後から出てくるんだ。

 このごつごつしたの、蕾だよ。 先に花が咲くのさ 」

「 へえ・・・  それがこのピンク色なのね 

「 ウン  あと  ヨモギ饅頭も。  

 ヨモギも そろそろ原っぱに出てるかなあ 

「 よもぎ って なあに。 」

「 あ 草なんだ。 野草かな。 あの緑色はヨモギの色だよ 」

「 え・・・草 なの・・・? 」

「 そ。 抹茶とかとはちょっと違う匂いがしてさ

 ああ 春だな〜〜〜 って感じかなあ。 

 チビの頃 摘んできてヨモギ餅とか作ってもらったよ  」

「 ・・・あのう この中に よもぎ っていう草が詰まっているの?? 」

フランソワーズは おそるおそる、その緑濃い菓子を眺めている。

「 あ 中身はね アンコ だよ、大丈夫 」

「 アンコ?  あ! ドラやき の中身と同じね? 

 わたし どらやき だいすき♪ 」

「 あはは じゃあ サクラ餅もヨモギ饅頭も好きだよ 絶対に 

「 うふふ〜〜〜 お茶の時間が楽しみ〜〜〜

 あ。 日本のお茶がいいのかしら 」

「 う〜ん ? 別に コーヒーでも紅茶でもオイシイと思うな。

 あ 砂糖、入れないほうがいいかも ・・・ 」

「 ふうん  わくわくしてきたわ♪ 」

「 ウン♪  ・・・ きみの笑顔、うれしいな 」

「 え  なあに 

「 なあんでもなあいっと・・・ ただいまで〜〜す 」

二人は キッチンのドアを開けた。

「 ほっほ〜〜〜 お使い、ご苦労さん。 今夜は御ご馳走や〜〜 」

料理人氏は 大いに満足・・・ 頬を染めあっている若いモン達を

にこにこ・・・眺めていた。

 

    花が咲き 花風吹となり 五月晴れ も楽しんで

 

  ―  梅雨前線が今年もこの国にやってきた。

 

 

( さあ この話の一番最初に戻りマス )

 

 

ぽと ぽと ぽと ・・・・

 

雫はコートから転がり落ち足元に水玉模様を描いたが

コートも 中身のニンゲンもほとんど濡れていなかった。

 「 あは 博士の防水スプレー すごいね〜〜〜 」

 ジョーは ささささっとパーカーから雨を払う。 

「 ええ ・・・ 不思議ねえ  雨の中を歩いても濡れないって 」

「 うん  あは 髪に少し、雨が ・・・ のってる

「 え? 」

「  ・・・・ 」

彼女の金髪には 雨粒が留まり、ティアラに見える。

 

       宝石???

       あ ・・・ お姫さま みたい だ・・・!

 

「 どこ? 」

「 あ そのままが ・・・ いいよ すごくキレイだ 」

「 あら そんなにキレイなの? 雨の粒ってどんな感じなのかしら 

 見てみたいなあ 」

「  ・・・ あ  あの。 雨もキレイだけど・・・

 その・・・ き きみ が  そのう、すごく似合ってて

 ・・・ キレイなんだ 」

「 え ・・・ 」

「 ごめん 濡れちゃうよね  タオルあるから これで拭いて 

ジョーはパーカーのポケットからごそごそひっぱりだした。

「 はい。 あ ちゃんと洗濯してあるからさ 使って 」

「 ありがとう  ・・・ あら 結構濡れてたのね 」

「 ・・・ ホント めっちゃキレイだったな ・・・ 」

「 え なあに。 」

「 あ ううん ・・・ さあ 晩御飯の準備だあ 」

「 うふふ 張り切っているわね。 ねえ ジョーって 調理関係の仕事、

 していたの? 」

「 え??  ううん 全然。 当番の時、手伝ってたくらい・・・

 ほとんど 張大人に仕込まれてるのさ 」

「 まあ そうなの?   お料理 ・・・ すき? 」

「 うん 楽しいな。 ってか 皆がさ おいし〜〜って

 食べてくれるのが好き、かな 」

「 ・・・ ステキね ジョーって 」

「 え??  あ これとこれはすぐに冷蔵庫 だね 」

「 手伝うわ〜〜 わたしだって重いもの、持てます? 」

「 サンキュ。 あ アイスも買ってきたんだった〜〜

 いそげ いそげ〜〜 」

  軽やかな笑い声が キッチンに広がった。

 

じめじめして ちょっと寒い気もするけど 

彼も彼女も  ほっこほこ気分。 自然に笑みがこぼれてしまう。

ちょっと遠慮がちな < 仲間 > が 仲良しメイト に

少し近くなった かもしれない。

 

      ジョーって。

      優しいのね ・・・

      こころが温かくなるわ

 

      ・・・ 一緒に いたい ・・・ !

 

 

 

      彼女といると ここにいると

      ぼくは ―  

 

      ぼくの中の澱んだモノが

      たまっていた泥が 抜けてゆくみたい・・・

      ホントはとっても汚いのに。

 

      彼女の笑顔、見たくて。

      ぼくは ―

 

      自分の中の 毒 を消そうとするんだ・・・

      ホントはすごくイヤなヤツなのに。

 

      ねえ ぼく。 

      ここに居て いいかな。

 

      きみの側にいて いい?

 

      ― きみの側に居させてほしい

 

 

「 え〜とぉ ・・・ 大人〜〜 これで全部です。

 買い忘れとか ないと思うけど 

「 ほっほ〜〜 おおきに〜 ご苦労はん。 

 今なあ オヤツ、用意するさかい、 手ぇ 洗って来なはれ 」

「 うん  あ〜 なんかやっぱ濡れてるなあ

 ぼく ついでにシャワー してくるね 」

ジョーは ぱたぱた・・・バス・ルームに駆けていった。

 

「 なあ お嬢。  彼 ・・・ ええ坊 ( ぼん )やなあ? 」

「 ・・・ うふふ  そうね、温かいのね 」

「 そや。 お嬢も気付きはってんな。

 ・・・ 護ってやってや。    坊のココロをな 」

「 ・・・ 出来るかしら、 わたしに 」

フランソワーズは 半ば独り言みたいに呟いた。 

「 お嬢なら出来るで。  お嬢にしかでけへん。 」

「 え ・・・ 」

「 あのな。 ワテら みいんなが応援してまっせえ 」

「 ・・・・・ 

彼女は 黙ってうなずいた。

 

  「 彼のこころ ・・・ なにか固い殻 ある。

   その中に 温かいもの いっぱい。

   お前、彼が湛えるその慈しみに気付いた。 

   お前なら 彼の殻、破れる  彼の中の泉、解放できる 」

 

全員でこの邸で暮らしていた時 ジェロニモJr. が呟いてくれた言葉が

彼女のこころに ず〜〜〜ん ・・と響く。

 

     出来るかしら  ― わたしに。

 

     ああ 強くなりたい ・・・!

     彼の温かい雨を 慈雨を 護るために。 

 

「 こんなわたしで  出来るかしら 」

「 やってみなはれ。  そう思ってゆくことなあ

 なんとのう自分自身も変わってゆくで 」

「 ・・・ え  そう? 」

「 そうや。  思い続ければいつか叶うで。

 ワテはそう信じて生きてるで 」

「 ・・・ うん。 」

 

     わたし。   ここで 生きてゆく。

 

出来れば記憶から消してしまいたい・あの日々 ・・・

そしてその後の逃避行をへて  ― ここに辿りついた。

「 ― わたし  ここが好きだわ。 」

仔細あって故郷へは帰らないと決めた。

新しい地で 新しく生きてゆければ ・・・ と願った。

では どこで ― と考えた結論は ごく自然にこの邸 となった。

 

  彼と巡りあったから。  彼の側に居たいと思ったから。

 

      彼と 生きてゆきたい と望むから。

 

 

      す う −−−−−−− ・・・・・ !

    

フランソワーズは いっぱいに新しい空気を吸った。

「 さあ。  お茶にしましょう。  美味しい和菓子があります 

 

 今 この邸で。

博士とイワンと時々顔を出す仲間たちと

     そして    ジョーと    ひとつ屋根に下に暮らしている。

 

 

       しとしとしと ・・・・  

 

   今日も 朝から細かい 細かい 雨が 宙に舞っている。

  

 

*******************************          Fin.       ***************************

Last updated : 07.12.2022.                 back        /      index

 

**********    ひと言   *********

そんな訳だから ジョー君?

 わざわざ 憂さ晴らしに 都会にでなくてもいいのよ?

目の前に シアワセ あるんだからね (>_<)