『 雨の日は ― (3) ― 』
しとしとしと ・・・ 細かい雨が落ちている。
半ば潜航している飛行艇の上に 数人の人影が見える。
「 ― ふん。 案外温かいな 」
「 今は満潮のようだね。 ここは廃港なのかな? 船舶の姿、ないね。
ちょっと潜ってこようかな 」
「 待って。 誰か 来た ・・・! 」
003は飛行艇から降りて 防波堤とおぼしき突堤で辺りを見回していたが
彼女の言葉で全員が ぴ・・っと緊張した。
す・・・
音もたてず気配も感じさせず、もちろん姿も見せずに
彼らは 防御のフォーメーションを組んだ。
「 脳波通信に切り替える。 照準を絞れ 」
≪ 了解 ≫
司令塔・004からの通信で 彼らはさらに静かに闇の中に潜んだ。
≪ 003 詳細を送れ ≫
≪ 了解 ・・・ 「 あ ああ! ここです〜〜〜 」
彼女の通信は途中から 普通の音声会話に変わった ― それも大声の。
その上、彼女は物陰から飛び出した! 和さわさ〜〜〜手を振りながら。
≪ うわ??? ≫
「 ここです〜〜〜 コズミ先生ですよね〜〜〜 」
彼女の視線の先には 白髭を蓄えた好々爺が 立っていた。
コズミせんせい だってぇ????
全員が 身を乗り出してしまった。
細かい雨の向うの人影が ゆっくりと大きく手を振っていた。
― それから それから それから
いろいろ ・・・ まさに波乱万丈ありまして。
ギルモア博士はコズミ邸から そんなの遠くないこの地に
< 家 > を建てた。
「 ほっほ これは立派な邸宅ですなあ ギルモア君。 」
「 いやあ ・・・ とにかく安全第一 だけでなあ
ああ 君の邸、壊してしまって申し訳ない ・・・
そちらも 来週には完成する、とのことだぞ 」
「 ほっほ〜〜 いやあ ありがたいなあ
皆さん 安心して過ごされて欲しいのう 」
「 ふふふ 地下は研究室に工房、最地下は格納庫なんじゃ。
あとは 新しい飛行艇の建造じゃ! 」
「 おお 君は相変らずエネルギッシュじゃのう 」
「 やるべきことは山ほどあるのだよ。
ああ 二階には和室の座敷も設えたよ 遠慮なく遊びに来て欲しいのう 」
「 それは 嬉しいなあ ありがとう ギルモアクン 」
オールド・ボーイ達は 意気投合で復活のようだ。
とん とん とん ・・・
足音も軽く登ってゆく。
新築の家の階段はぴかぴかで よく滑る。
「 わは ・・・ お〜〜っとぉ〜〜
へへへ スケート・リンクみたいだあ〜〜 」
ジョーは 一人ではしゃぎつつ二階の自室へ向かう。
階段を上って とっつきの左右がワカモノ二人・・・
あの赤毛のアメリカン と ジョーの部屋だ。
「 門番 だな。 身の軽いお前らにぴったり 」
・・・ ということらしい。
カチャ ・・・ 広い部屋の突き当りには窓が大きく開けている。
「 ふんふんふ〜〜〜ん♪ へっへ〜〜〜 さいこ〜〜 」
バッグとキャップを机の上に放り投げると スマホと一緒に
ベッドに ぱふん。
「 ん〜〜〜〜 こんな広いトコ、 いいのかなあ〜〜〜 」
羽毛布団がふんわり 彼を包む。
「 へ へへへ ・・・ ここぜ〜〜んぶぼくの部屋だもんなあ〜〜 」
誰かとのシェアではない。 彼が一人で使ってよいのだ。
クローゼットには 真新しい服がならんでいる。
足元には スニーカーが数足、置いてある。
「 なんか ・・・ いいのかなあ・・ ぼくなんかが 」
貧乏性だなあ と自分でも思う。
広い部屋に一人きりだと 落ち着かないのだ。
「 う〜〜ん ・・・ なんか ・・・ちょっとなあ ・・・
う〜〜ん 一人でいてもやるコト、ないし。
あ 今晩の食事、どうするのかなあ 手伝いに行ってこよ! 」
ガバ・・・っと起きると 彼は真新しい部屋から飛び出した。
「 えっと ・・・ キッチンは下 だよな〜〜
・・・ と ・・・? 」
階段を降りる前に どうしても どうしても視線は廊下の奥、
どん突きのドアにへばり付いてしまう。
・・・ あそこ、 彼女の部屋 なんだよなあ
紅一点の部屋は南側の角部屋。 これは全員一致で即決した。
その手前は < ガードマン > として あの独逸人と褐色の巨人が
向かいあわせで部屋を構えている。
「 ・・・ 彼女 ・・・ なにしてるのかなあ ・・・
どんな部屋なんだろ? カーテンの色はブルーっぽいけど 」
オンナの子の部屋、 なんて想像もつかない。
「 ・・・ キッチン 行こ。
大人の手伝いしてるのって なんか楽しいし。
今晩のご飯はな〜〜にかな〜〜〜〜 」
タカタカタカ −− キッチンに駆けこんだ。
「 大人〜〜〜 」
「 わ!? な なにね〜〜〜 あ ジョーはん 」
「 あは。 ねえ 手伝うよぉ 今晩のメニュウはなんですか 」
「 ほっほ〜〜〜 どないしたね 」
料理人はたいそう機嫌がよく 丈の長いエプロン姿で振り向いた。
「 手伝いマス。 洗いモノ しますよ〜 」
「 手伝い、大歓迎やで〜〜 あんさんなら なおよろし。
ここまでの旅で 調理の腕 しっかり、鍛えてやったしな 」
「 え ・・・ あ ・・・ はあ 」
「 なあ この辺りで美味しいお野菜、なにね??
ワテ、ようわからんよって ジョーはん 買い物 いてきてくれへんか 」
「 え・・・ だってメニュウは 」
「 ほっほ〜 あんさんの買うてきたお野菜、見て決めまっせ
あ あと 豚肉 と チキン と 卵 と 」
「 わ わ〜〜〜〜 待って まって ・・・ メモするから
え〜〜〜と??? メモ〜〜〜は 」
「 はい これ・・・ 」
ジョーの後ろから涼しい声とともに 可愛いメモ用紙が差し出された。
ビスケットみたいなキャラクターが隅についている。
「 おわ? ・・・・ あ あ 003 さん 」
「 うふ あのね フランソワーズ。 」
「 は? 」
「 だから 数字で呼ばないで。 わたし フランソワーズ です 」
「 ふ ふらんそわずさん ? 」
「 ・・・ フランソワーズ。 あなたは 009 でなくて
えっと ・・・ ジョー でしょう? 」
「 は はい! あ あのう メモ用紙、ありがとう! 」
「 どういたしまして。 あの・・・買い物に行くの? 」
「 うん、食糧の買い出しさ 」
「 あのう ・・・ この近くにファーマシー あるかしら 」
「 ??? ふぁ〜ま・・・? 」
「 薬局・・・ 薬屋さんのことやで。
あ お嬢〜 あのな ドラッグ・すとあ いうねん。
近くに商店街にもあるさかい、この坊と一緒に行ったらええよ。
お嬢はんは いろいろ・・・必要なモン、あるさかいな 」
料理人氏は さすがの年の功、何気なく助け船をだした。
「 え ・・・ あの ジョー いい? 」
「 もっちろん〜〜ん。 あ ぼく 店の前で待ってるからさ。
いろいろ並んでるから自由に選べるよ 」
「 そうなの? ・・・ ありがとうございます 」
「 いいってば〜〜〜 ここはぼくの育った国だからさ
わかんないコト、どんどこ聞いてくださ〜〜い 」
「 ええ ええ 」
「 ほっほ〜〜 そんならな〜 お嬢?
坊 ( ぼん )と この土地のお野菜、選んでもろてくれるか。 」
「 わあ できるかしら ・・・
わたし あんまりお料理とかしたこと、なくて ・・・ 」
「 そやったら 店の大将に聞いたらええ。
美味しい食べ方 教えてや〜〜 て 」
「 あら そうね うふふふ なんだか楽しみ〜〜 」
「 あは それじゃ ・・・ 行く? 」
「 ええ 」
「 あ コート、いるかも。 案外まだ寒いかも 」
「 ・・・ メルシ。 」
わっはは〜〜〜〜ん♪
ぼくでも 役に立つこと、あるんだ!
新しい家で ― ジョーはなんだか滅茶苦茶嬉しい。
自分の役割を果たすと ありがとう! 助かった! の言葉が
降り注いでくる。
もしかして。
ぼくって ― ここでは 必要なヒト ・・・?
居てほしい ヒト ・・・ なの?
なんだか自分でも信じられない気持ちなのだ。
だって。 ずう〜〜〜っと。 そう それは この境遇に落ちる前から
いや 彼自身が覚えている限り ずっと・・・ 感じていたから。
何の価値もないんだ ・・・ ぼくは。
ああ 生きている価値 ある?
こんなぼくに ― 居場所 ないよ
こんなぼくを ― 待っているヒトなんか いない
誰も ぼくのことを 気にしているヒト いないんだ
ぼくは 必要のないニンゲン ・・・
いなくても困らないニンゲン ・・・
底なしの寂寞感は 彼をどんどん内向的にしていっていた。
それが その <重石> が ・・・ とれた。
皮肉にも 本来の身体を失って 彼は生きる目標を得たのだ。
「 えっと〜〜〜 大人〜〜〜 もう注文忘れ、ないかなあ 」
「 はいナ ジョーはん。 あのな お嬢をちゃ〜〜んと
エスコートするんやで? 乙女の気持ち よう察してあげてな 」
「 ・・・ は はい! 」
日々の暮らしに必要なのは 雑用 だ。
些細なことばかり だが それが欠けてしまえば生活の質が落ちる。
まあ 平たくいえば 不便に感じ暮らしにくく思えるってことだ。
ぼくが やる!
改善するんだ。
細かいトコから やってくよ。
新しい邸で生活するようになり ― ジョーはくるくる働いた。
いや 動きまわった。
仲間たちの何人かは 母国に戻りこの邸で次のステップの準備を
しているモノもいる。
彼は 聞いて回る。
「 あの ・・・ なんかヘルプ、必要なら言って? 」
「 ほっほ〜〜 ジョーはん、おおきに〜〜〜
あんさん、これからどないしはるつもりや 」
「 どない・・・って・・・ 」
「 ワテはいずれ店を構える。 母国に帰る、いうヒトらもおる。
ジョーはんは どないするね 」
「 え ・・・ ぼく ・・・ ここに居させてもらえないかなあ
・・・ 帰るトコって ないんだ 」
「 ふ〜ん ・・・? ま それもええやろ。
ギルモア先生にお願いしはったか? 」
「 あ ・・・ ううん ・・・・ まだ 」
「 さよか。 ほんならワテがな ちら〜〜と言うとくわな。
ジョーはんに一緒に住んでもろたら ええんとちゃいまっか てな 」
「 え ・・・ あの あの ・・・ いいの? 」
「 そやかて その方がギルモアセンセも便利がええやろ? 」
「 ・・・ うん ・・・ たぶん 」
「 それになあ 若いオトコはんがおったら安心や。
ギルモア先生とお嬢とイワン坊 だけではなあ 」
「 え。 ・・・ お嬢 って ・・・・ あのう・・・
ふ ふらんそわず ・・・ も ここに? 」
「 あれ 聞いとらへんのか?
お嬢はここで暮らしはるそうやで。 」
「 え え え ・・・ そ そうなんだ〜〜〜 」
きんこんかんこ〜〜〜〜ん♪(^^♪(^^♪
ジョーのココロの中で 金の鐘が鳴り響いた。
「 そやから。 ジョーはん? 用心棒、たのんまっせ。
ワテもちょくちょく顔、出すさかいに あんさん、しっかりしてや 」
「 ・・・ は はい 」
「 ギルモア先生とイワン坊、護ってや。 」
「 は はい! 」
「 ほんでもって。 お嬢やけど。 あんさんなあ しっかりせいや?
ぼ〜〜〜っとしはってたら ― 取られまっせ。 」
「 え? えええええ・・・・? 」
「 わかってるで。 ワテだけやない、み〜〜んなわかってる。
好きやったらな 正々堂々とモノにせいや。 」
「 も モノぉ??? 」
「 そや。 お嬢の笑顔、護ってや。 あんさんの使命やで。 」
「 は はい 」
ジョーは ぴし・・・っと背筋が伸びた。
ほっほ・・・
こりゃ 本気やなあ この坊 ( ぼん )
ええこっちゃ。
お嬢とお似合いやで〜〜
あんさんがなあ
ずう〜〜〜っと お嬢のことば〜〜っかり
見てはるの、み〜〜んな知ってるでぇ
ほっほ・・・
隠せてる、思てるのん、本人だけやけどな
大人はもうちゃんと < 見えて > いたけれど
素知らぬ風を 装っていた。
「 わかれば ヨロシ。 ほな 買い物、頼むで。
今晩は 天婦羅や。 揚げたてのあっつあつ・・・楽しみまひょ。
ああ 大根、忘れずになあ 」
「 了解〜〜〜 イッテキマス! 」
彼は 財布とメモ、買い物カートをひっつかむと
疾風怒濤? の勢いで坂道を駆け降りていった。
こんなカンジに 彼は 新しい家でも キッチンで食事調達担当として
くるくると働いていた。
「 ふ〜ん ・・・っと。 大人〜〜 買い物、終わりましたァ 」
「 おおきに おおきに〜〜 冷たい麦茶 有りまっせぇ
」
「 わ♪ 〜〜〜〜 んま〜〜〜〜 」
「 おおきに ジョーはん。 今日も美味しいご飯、作りまっせぇ 」
「 わい♪ ・・・ えっと じゃあ ぼく 風呂掃除 してくるね 」
「 あれま ちょいと休みはったらどないや 」
「 あは ぼ〜くを誰だと 」
「 そやけどな まあ 一休みせい。
麦茶にはちいと妙やけど チーズがあるさかい、カナッペやで。 」
「 うわお〜〜〜 うまそ〜〜〜 」
「 あ そやそや。 このキヌサヤの筋、取ってもろうてもええか。 」
料理人は ザル一杯の絹サヤを差し出した。
「 おっけ〜〜 あ〜 これ 食事当番の時、よくやったよう〜〜〜
懐かしいな・・・ 」
ジョーは キッチンの片隅でスツールに座るとカナッペを摘みつつ
黙々とサヤエンドウの筋を取り始めた。
「 あの わたしも やるわ 」
不意にザルの上に 白い手が伸びてきた。
「 ? ・・・ あ ・・・ ふ ふらんそわず さん 」
「 フランソワーズ。 さん はいらないでしょ。
わああ〜〜 なんてキレイで瑞々しい緑なの ・・・ 」
白い指が サヤエンドウを摘み上げる。
うわあ 〜〜〜〜〜〜〜〜
き きみの指のが もっとキレイだよう〜〜
・・・ あ。
絹サヤと < お似合い > だな
ジョーは俯きつつ じ〜〜〜っと彼女の手を見つめてしまう。
「 ね? どうやるのですか 教えて ・・・ 」
「 あ うん ・・・ あのう〜〜 ここを こう持って。
アタマんとこ、ポチっと折ってから す〜〜〜 ・・・って 」
「 ・・・こ こう ・・・? 」
「 うんうん あ そうっと持ってみて ・・・
サヤエンドウは柔らかいから 」
「 そうなの? ・・・ これで いい?
」
「 うん いっぱいあるから えへ 手伝ってくれると嬉しいや 」
「 あんまり早くできないけど ・・・ いい ? 」
「 もっちろ〜〜〜ん オンナノコは丁寧だね〜〜 」
「 ・・・ そ ?? これは春の野菜なの? 」
「 ほっほ〜〜 一年中 食べられるけどな〜〜
今が一番やで。 今晩、サラダで頂きまひょ
おお ようけでけましたな。 おおきに〜〜 お二人さん 」
「 えへ・・・ 」
「 うふふ 」
「 そや。 今晩のお食後になあ ナンか和菓子、買うてきくれへんか
二人で行ってきたらええやん。
フランソワーズはん このお国にスウィーツ、ようみてきてや 」
「「 ・・・・ ( うわ♪ ) 」」
若いモン二人は ぎこちない笑顔で、離れて例の坂道を降りていった。
「 ほっほ・・・ じきにな 仲よう〜〜 お手々繋いでになるやん。
ワテの目ぇは確かやで。 あんたらお似合いや。
ギルモア先生に 次の生き甲斐、差し上げてやあ〜〜 」
さすが年の功、というべきか この料理人氏の < ヒトを見る目 > は
確かだった。
若いモン達は やっぱり少し離れて、でも笑顔満載で帰ってきた。
「 ただいまあ〜 」
「 ただいま戻りました ああ 気持ちよかったわあ〜〜
え・・・っと。 なんでしたっけ この和菓子 」
「 え あは あのぅ ピンクのが桜もち・・・
で ころん、としたのがヨモギまんじゅう デス。
春のお菓子 なんだって
えへへ・・・ この前ね 店員さんに教わったんだ。 」
「 サクラもち? ああ あのサクラの花の色 なのかしら 」
「 ウン もうすぐ咲くよ ほら あそこの木、サクラだよ 」
ジョーは窓から坂道の途中にある木を指した。
黒っぽい幹の、大きな木で 道に枝を広く伸ばしている。
しかし ごつごつした枝ばかりが目立つのだ。
「 え・・・ でもまだ葉っぱも出ていないわよ? 」
「 あ あのさ、 サクラって葉っぱは後から出てくるんだ。
このごつごつしたの、蕾だよ。 先に花が咲くのさ 」
「 へえ・・・ それがこのピンク色なのね 」
「 ウン あと ヨモギ饅頭も。
ヨモギも そろそろ原っぱに出てるかなあ 」
「 よもぎ って なあに。 」
「 あ 草なんだ。 野草かな。 あの緑色はヨモギの色だよ 」
「 え・・・草 なの・・・? 」
「 そ。 抹茶とかとはちょっと違う匂いがしてさ
ああ 春だな〜〜〜 って感じかなあ。
チビの頃 摘んできてヨモギ餅とか作ってもらったよ 」
「 ・・・あのう この中に よもぎ っていう草が詰まっているの?? 」
フランソワーズは おそるおそる、その緑濃い菓子を眺めている。
「 あ 中身はね アンコ だよ、大丈夫 」
「 アンコ? あ! ドラやき の中身と同じね?
わたし どらやき だいすき♪ 」
「 あはは じゃあ サクラ餅もヨモギ饅頭も好きだよ 絶対に 」
「 うふふ〜〜〜 お茶の時間が楽しみ〜〜〜
あ。 日本のお茶がいいのかしら 」
「 う〜ん ? 別に コーヒーでも紅茶でもオイシイと思うな。
あ 砂糖、入れないほうがいいかも ・・・ 」
「 ふうん わくわくしてきたわ♪ 」
「 ウン♪ ・・・ きみの笑顔、うれしいな 」
「 え なあに 」
「 なあんでもなあいっと・・・ ただいまで〜〜す 」
二人は キッチンのドアを開けた。
「 ほっほ〜〜〜 お使い、ご苦労さん。 今夜は御ご馳走や〜〜 」
料理人氏は 大いに満足・・・ 頬を染めあっている若いモン達を
にこにこ・・・眺めていた。
花が咲き 花風吹となり 五月晴れ も楽しんで
― 梅雨前線が今年もこの国にやってきた。
( さあ この話の一番最初に戻りマス )
ぽと ぽと ぽと ・・・・
雫はコートから転がり落ち足元に水玉模様を描いたが
コートも 中身のニンゲンもほとんど濡れていなかった。
「 あは 博士の防水スプレー すごいね〜〜〜 」
ジョーは ささささっとパーカーから雨を払う。
「 ええ ・・・ 不思議ねえ 雨の中を歩いても濡れないって 」
「 うん あは 髪に少し、雨が ・・・ のってる 」
「 え? 」
「 ・・・・ 」
彼女の金髪には 雨粒が留まり、ティアラに見える。
宝石???
あ ・・・ お姫さま みたい だ・・・!
「 どこ? 」
「 あ そのままが ・・・ いいよ すごくキレイだ 」
「 あら そんなにキレイなの? 雨の粒ってどんな感じなのかしら
見てみたいなあ 」
「 ・・・ あ あの。 雨もキレイだけど・・・
その・・・ き きみ が そのう、すごく似合ってて
・・・ キレイなんだ 」
「 え ・・・ 」
「 ごめん 濡れちゃうよね タオルあるから これで拭いて 」
ジョーはパーカーのポケットからごそごそひっぱりだした。
「 はい。 あ ちゃんと洗濯してあるからさ 使って 」
「 ありがとう ・・・ あら 結構濡れてたのね 」
「 ・・・ ホント めっちゃキレイだったな ・・・ 」
「 え なあに。 」
「 あ ううん ・・・ さあ 晩御飯の準備だあ 」
「 うふふ 張り切っているわね。 ねえ ジョーって 調理関係の仕事、
していたの? 」
「 え?? ううん 全然。 当番の時、手伝ってたくらい・・・
ほとんど 張大人に仕込まれてるのさ 」
「 まあ そうなの? お料理 ・・・ すき? 」
「 うん 楽しいな。 ってか 皆がさ おいし〜〜って
食べてくれるのが好き、かな 」
「 ・・・ ステキね ジョーって 」
「 え?? あ これとこれはすぐに冷蔵庫 だね 」
「 手伝うわ〜〜 わたしだって重いもの、持てます? 」
「 サンキュ。 あ アイスも買ってきたんだった〜〜
いそげ いそげ〜〜 」
軽やかな笑い声が キッチンに広がった。
じめじめして ちょっと寒い気もするけど
彼も彼女も ほっこほこ気分。 自然に笑みがこぼれてしまう。
ちょっと遠慮がちな < 仲間 > が 仲良しメイト に
少し近くなった かもしれない。
ジョーって。
優しいのね ・・・
こころが温かくなるわ
・・・ 一緒に いたい ・・・ !
彼女といると ここにいると
ぼくは ―
ぼくの中の澱んだモノが
たまっていた泥が 抜けてゆくみたい・・・
ホントはとっても汚いのに。
彼女の笑顔、見たくて。
ぼくは ―
自分の中の 毒 を消そうとするんだ・・・
ホントはすごくイヤなヤツなのに。
ねえ ぼく。
ここに居て いいかな。
きみの側にいて いい?
― きみの側に居させてほしい
「 え〜とぉ ・・・ 大人〜〜 これで全部です。
買い忘れとか ないと思うけど 」
「 ほっほ〜〜 おおきに〜 ご苦労はん。
今なあ オヤツ、用意するさかい、 手ぇ 洗って来なはれ 」
「 うん あ〜 なんかやっぱ濡れてるなあ
ぼく ついでにシャワー してくるね 」
ジョーは ぱたぱた・・・バス・ルームに駆けていった。
「 なあ お嬢。 彼 ・・・ ええ坊 ( ぼん )やなあ? 」
「 ・・・ うふふ そうね、温かいのね 」
「 そや。 お嬢も気付きはってんな。
・・・ 護ってやってや。 坊のココロをな 」
「 ・・・ 出来るかしら、 わたしに 」
フランソワーズは 半ば独り言みたいに呟いた。
「 お嬢なら出来るで。 お嬢にしかでけへん。 」
「 え ・・・ 」
「 あのな。 ワテら みいんなが応援してまっせえ 」
「 ・・・・・ 」
彼女は 黙ってうなずいた。
「 彼のこころ ・・・ なにか固い殻 ある。
その中に 温かいもの いっぱい。
お前、彼が湛えるその慈しみに気付いた。
お前なら 彼の殻、破れる 彼の中の泉、解放できる 」
全員でこの邸で暮らしていた時 ジェロニモJr. が呟いてくれた言葉が
彼女のこころに ず〜〜〜ん ・・と響く。
出来るかしら ― わたしに。
ああ 強くなりたい ・・・!
彼の温かい雨を 慈雨を 護るために。
「 こんなわたしで 出来るかしら 」
「 やってみなはれ。 そう思ってゆくことなあ
なんとのう自分自身も変わってゆくで 」
「 ・・・ え そう? 」
「 そうや。 思い続ければいつか叶うで。
ワテはそう信じて生きてるで 」
「 ・・・ うん。 」
わたし。 ここで 生きてゆく。
出来れば記憶から消してしまいたい・あの日々 ・・・
そしてその後の逃避行をへて ― ここに辿りついた。
「 ― わたし ここが好きだわ。 」
仔細あって故郷へは帰らないと決めた。
新しい地で 新しく生きてゆければ ・・・ と願った。
では どこで ― と考えた結論は ごく自然にこの邸 となった。
彼と巡りあったから。 彼の側に居たいと思ったから。
彼と 生きてゆきたい と望むから。
す う −−−−−−− ・・・・・ !
フランソワーズは いっぱいに新しい空気を吸った。
「 さあ。 お茶にしましょう。 美味しい和菓子があります 」
今 この邸で。
博士とイワンと時々顔を出す仲間たちと
そして ジョーと ひとつ屋根に下に暮らしている。
しとしとしと ・・・・
今日も 朝から細かい 細かい 雨が 宙に舞っている。
******************************* Fin.
***************************
Last updated : 07.12.2022.
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********** ひと言 *********
そんな訳だから ジョー君?
わざわざ 憂さ晴らしに 都会にでなくてもいいのよ?
目の前に シアワセ あるんだからね (>_<)